2012年3月22日木曜日

【読書】「反原発」の不都合な真実

 藤沢数希氏のブログでの議論が体系的にまとめられた書。コンパクトで私のような素人にもわかるようにまとまっている。特に第六章の「原子力を理解する」というセクションはいわゆる”文系人間”におすすめだ。高校から物理や化学について行けなくなった私のような素人でも、核分裂反応や原子力発電の仕組をざっくりと理解することができた。

本書の特徴は、具体的な比較対象を設定しながら原発の可否を議論しているところだと思う。センセーショナルな事故が起こると、どうしても感情的な善悪二元論になりがちだ。原発によって放射性物質が拡散し、人が死ぬかもしれない。当面原発の近くに立ち入ることができなくなるかもしれない。そのような危険を冒して原発を稼働し続ける必要があるのだろうか?といった議論は正論だと思うが、正論で導かれる結論が置かれた状況での最善とは限らないように思う。

本書では、原発事故が発生して死亡者が発生するリスクを、原発の代替として火力発電を行うことによって大気汚染が進み、死亡者が増加するリスクと比較している。また、このリスクを発電効率と掛け合わせて、必要な量の発電を行う上で最も死亡リスクの低い発電手段が原発であることを説明している。

本書の主張は合理的で納得できるものと思った。だが、コンパクトにまとまっている反面もう少し精緻な分析を読みたいという気にもなった。

原発事故による死者と大気汚染による死者を同質のもの(同じ1人の死亡者)として議論しているが、全く健康な方が大量の放射線を浴びて死に至るケースと、死に至らないまでも何らかの健康上の問題を持っていた方が大気汚染を引き金として死に至るケースは同質といえないように思う。この点、本書の切り口は原発のリスクがやや過小に評価されているように感じた。

一方、死亡リスクの評価においては立地の問題も重要だと思った。大量の放射線を浴びるリスクと大気汚染による健康被害リスクの両方とも、発電所からの距離が遠くなるほどリスクは下がるだろう。原発を止めて火力を動かす今の状況の可否を考える場合、比較的都市部に建設されている火力のほうが死亡数が増える点を考慮すべきだと感じた。

ところで、もともと筆者のブログを読んでいたこともあり、私は「どちらかと言えば原発継続がベター」と考えていた。なので筆者の主張に納得はしたが、私は本書を読んでも「絶対に原発継続すべき!」とまでは思えなかった。

それは今後の技術革新の余地がどの程度あるのかがよくわからなかったからだ。本書では多少触れられていた程度だったが、より安全な原子力発電技術、使用済み核燃料の再利用技術、より発電効率が高い火力発電、より安全な化石燃料の採掘技術、よりコストが低い自然エネルギー発電、蓄電技術などが実現するかどうかで、最善の選択肢は一変するように思う。それが誰にもわからないのならば、初期投資が重く、長期に渡って使用済み核燃料を管理しなければならなくなる原発を強く押せないように感じた。


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