2011年8月15日月曜日

日本中枢の崩壊


遅まきながらお盆休みを利用して読了。著者は経済産業省の官僚で、官僚組織の意思決定プロセスの実態を明かすと共にその問題点を具体的に指摘している。批判一辺倒ではなく、具体的な政策提言を行っている点が単なる暴露本と違う所だ。


電力産業の発送電分離、中小企業に比べて過剰な農業保護への批判、また市場競争力を失っている企業への補助による競争阻害批判などは、主張の通りだと思う。


読了後にまず感じたのは、リーダーシップ不在でミドル層にまでリスクを取らない風土が蔓延しているのは官僚組織だけでないということ。本書では「慎重に検討」「前向きに検討」といった婉曲な表現が官僚用語として上げられているが、今やこれらの言葉は一般用語化していると感じた。


日本人は「組織力が強みだ」と自画自賛することが多い。政府にはとりわけその傾向が強い。個人で戦うことに地震がないのでチームワークをことさら強調する。しかし、日本の強みはチームワークの「和」ないし「協調性」の部分であり、たとえば、組織としての決断力、俊敏性、行動力などにおいては、欧米の政府や企業に比べて明らかに劣っているということをあまり自覚していない。


問題は日本的な組織風土を変えるための手段。筆者は総理大臣によるリーダーシップを期待しているが、理想の人物が総理大臣になり続けるような国になるには、今の価値観や危機意識が変わらないと難しいだろう。ニワトリが先か卵が先かという話になるので、私はもっと危機的状況になるまでは変わらないと半ば諦めている。


それと読んでて感じたのは、政策の良否を評価する手法の開発と共通化にもっと取り組むべきだということ。NTTの売却益を原資として2千数百億円をベンチャー支援として無駄にした話がでているが、一般企業では全くあり得ない。政策の効果をキチンと測定して評価する仕組が欠如していることの証左だろう。


事業仕分けはこういった問題意識から始まったものであるが、その効果の測定方法が一般企業に比べると不正確だと思える。例えば大阪港の利用促進事業の事業シートでは、海外駐在員及び国内海運専門紙への企画広告、パンフレット製作の効果を大阪港における外貿コンテナ取扱貨物量の推移で判定している。実施事項と成果との因果関係が弱く評価指標として不適切であるし、コンテナ数の増加が最終的に税収とどのように関係しているのかも分からない。

コンテナ取扱貨物量の増加が最終目標であるなら別だが、事業シートでは大阪市の産業活動の活性化とある。例えば大阪港を使った輸出入を行っている事業所の売上高伸び率を取るとか、これら事業所にアンケートを取ってキャンペーン先の国との取引引き合いがあったかどうかを確認するとかすべきだ。


事業仕分けでその成果を判定するための指標の決め方について、栗東市の事業シート作成マニュアルでは以下記述がある。これでは具体性に欠けるし他の自治体で行っている同種の事業との比較が困難である。



【成果指標設定の留意点】
    ・成果の内容(市民生活にどのような効果があったかなど)を表わしている。
    ・活動指標(行政が実際に行った業務量)になっていない。
    ・実際に計測できる。
    ・民間の活動など他の要因が指標の値に大きな影響を及ぼしていない。
    ・経年変化が把握可能である。
    ・正確かつ適時に、低コストで計測できる。
    ・事務事業の目標到達度把握に使用可能なものである。
    ・市民が容易に理解できるものである。
    ・満足度のような比較が困難な数値はできるだけ使わない。
    ・データがとりやすいという理由で、施策と関係のない指標を設定しない。
    ・指標の数値の大小にこだわらない。
    ・事業が完了しないと成果が測れない(道路・施設建設、区画整理など)の場合は、毎年度測れるものを設定して代用する。
一般企業の管理会計のように投資の成果を対象事業の売上高で測定できない面で難しさはあるが、より効率的かつ客観的な手法を早期に開発すべきであろう。







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