2011年8月13日土曜日

税理士法改正反対署名依頼に思うこと

8月12日に日本公認会計士協会から会員・準会員宛に「税理士法改正反対署名へのご協力のお願い」が行われている。これは日本税理士連合会の「税理士法に関する意見(案)」において、”税理士になる公認会計士については、税法に属する科目のうち税理士試験において必須科目である所得税法又は法人税法のいずれか1科目の合格が必要である。”との改正を目指していることへの反対を行うものだ。


実際には税務実務の経験があっても、税理士試験を通るためには特別なトレーニングが必要だ。(例えは変だが、プロの歌手がカラオケでいい点とれないのと似たものだと思う。)税理士試験の所得税と法人税の合格率は10%ちょっとなので、この改正が通ると公認会計士が税理士業界に参入する上で大きなハードルができることになるだろう。


2年前くらいから、日本は上場企業が減る一方だ。ただでさえ監査業務の市場が縮小して人が余っているところに、税理士業界への転身にハードルを設けられるとかなり困るというのが今回の背景である。ただ、利害関係者である公認会計士協会が署名を集めても、世論の同調を得られるかはかなり微妙だ。私は会計監査の世界でメシを食って9年くらいたつが、今回の署名に参加する気にはなれない。

でもシンプルに考えれば、余程会計士から転身した税理士の能力に問題があるのでないなら、参入障壁を設けて税理士業界の活性化や競争が生まれるとは思えない。だから私は今回の改正案には反対だが、そもそも制度の立て付けをもっと自由なものに変えたほうがいいと思う。


1,税法を社会科の一部として高校のカリキュラムに入れることを制度化する。
2,税理士と会計士試験を一本化する。
3,科目合格制とし、1科目でも持っていれば資格保有者として公的資格を付与する。ただし、合格した科目がわかるようにする。
4,資格保有以降の実務経験を全て公開することを義務付ける。


そもそも、税理士という仕事は納税者の代理人である。依頼人である納税者の税金に関する知識が乏しいと、税理士がキチンと仕事をしているかどうかも分からない。だから、今までは資格試験によってその信頼性を担保しなければならなかったわけだ。高校くらいで税金について勉強してもらうのは決して生きる上で無駄にならないし、税務専門家への要求水準が向上する点でも意義あることだと思う。


一方、ここ20年で日本の会計ルールは急速に複雑化している。また、昨今話題の国際会計基準が適用されれば資格試験を通った時の知識の大部分が役に立たなくなる。税務の世界でも、国際的な企業の税務問題を扱う上では海外税務の知識が欠かせない。税理士や会計士が「会計・税務の何でも屋」であった時代は過去のもので、医者と同じようにそれぞれが得意な領域を持ち、専門外はそこまで強くないのが現実である。

今はまだ一般的な理解でないかもしれないが、そのうち「税理士」や「会計士」といった肩書きを持ってても、安心して仕事を任せることができないと思う人が増えるだろう。それは試験合格者の質の劣化によって起こるものではなく、必要な知識の拡大・細分化によって当然生じるものだ。

なので、「税理士」や「会計士」という肩書でできる業務範囲を決めるのではなく、具体的な専門知識や経験を全て開示して、何をやってもらうかは顧客が決めればいいと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿