2011年11月14日月曜日

オリンパスの決算訂正

オリンパスの過年度損失計上先送り問題は、上場廃止可否に議論が移ってきている。具体的なスキームやその影響額がハッキリとしない限り、東証が結論を出すことは当面ないだろう。ただ上場廃止に至るストーリーとして、東証が重要な虚偽記載の発生を原因とした上場廃止決定を行う可能性の他に、12月14日までに過去5期の決算訂正が終わらない恐れもあるのではないだろうか?以下、あくまで推測に過ぎないが過年度決算訂正の監査について考えてみる。

オリンパス、決算5年分を訂正 自己資本減少へ 


第三者委員会が過去の損失先送りスキームを解明したとしても、それらが全て監査に耐えうる証拠によって裏付けられるとは限らない可能性がある。関与者からの口頭説明によってしか裏付けが得られない部分について、如何に監査証拠を得るかという問題が起こりえるのではないだろうか?

また、第三者委員会による調査によって判明した事実の他に財務諸表の誤りがないことをどのように確かめるかというのも非常に大きな問題だ。報じられている通り過年度の投資損失隠しが行われているとするならば、投資関連の勘定科目に対する監査をもう一度やり直す必要があるであろう。2011年3月期のオリンパスの投資有価証券残高は単体が525億円で、連結が593億円となっている。子会社を含めて過去5期分の監査をやり直すとなると、かなりの時間を要すると考えるほうが自然だ。

さらに一番難しいケースと思われるのは、過年度の財務諸表監査において行われていたであろう内部統制へ依拠した監査アプローチのやりなおしを余儀なくされる場合だ。内部統制監査制度が採用された2009年3月期~2011年3月期において、オリンパスグループでは内部統制が有効との内部統制報告書に対して外部監査人による適正意見が表明されている。内部統制監査は元々財務諸表監査との一体監査を前提としており、同一の監査人がセットで検討することによって効率的に監査を実施する制度とされている。そのことから、過年度の財務諸表監査において内部統制に依拠した効率的な監査アプローチが行われていた可能性が高いと思われる。具体的に、通常は内部統制が有効に機能していることを前提に、サンプルテストの件数を減らす場合が多い。

ここで、報じられる通り経営者の直接的な関与による虚偽記載が行われていたとすると、その影響は投資有価証券、預金、のれんといった直接的に損失隠しを行った(可能性のある)勘定科目に限定されない。経営者自らが内部統制を無視するようなケースであったとすれば、特定の勘定科目に関連する内部統制だけではなく、全社的な内部統制が無効なものとして監査を行うのが通常だからだ。通常はこのケースとなればコストが合わずにそもそも監査を受注しないケースが多いが、仮に監査をやるとしても内部統制に依拠しないアプローチで全面的にやり直す可能性が考えられるのではないだろうか?

私は全く実際の監査の状況を知る立場にないが、この決算訂正監査で短期間で超えなければならないハードルは非常に高いと思われる。日本の証券市場への信頼回復の一歩として何とか乗り切って頂くことを願うのみだ。。






2011年11月11日金曜日

オリンパスの投資有価証券 その2

オリンパスの第三者委員会の調査結果が徐々に明らかになってきた。

オリンパス、預金水増しで損失隠す 1300億円資産計上 

1990年代の投資損失を外国銀行預金等に付け替えたとあり、含み損が含まれる預金残高は300億円~600億円とのことだ。

2009年3月期の有価証券報告書の単体貸借対照表上の現金及び預金は178億円計上されており、この記事にある外国預金等の残高を下回っている。なので、この外国銀行預金等は他の勘定科目で整理されていたのかもしれないし、子会社で計上されていたのかもしれない。

正直な所、預金の監査で失敗するなんてありえない気もするが、その辺りは今後の調査を待つしかない。通常、預金の会計監査では少なくとも銀行への残高確認手続が行われる。残高確認は監査人が直接銀行に確認を行う手続なので、含み損を見抜けなかったということが事実であれば、残高証明書の偽造も絡んでいた可能性もあるだろう。少数のアドバイザーだけではなく、複数の協力者も関与した大掛かりなものであった可能性もあるだろう。
仮に子会社にて含み損を抱えた資産が計上されていたとすると、問題は複雑となる可能性が高い。通常、連結財務諸表の監査を行うにあたって、海外子会社の監査は現地の監査人に指示してその結果に依拠する。子会社の監査をどのように行なっていたかや、そのフォローを日本の監査人がどのようにおこなっていたかも議論になるであろう。

今回の事件をきっかけにして、監査実務は大きな影響を受けるに違いない。会計監査の世界というのは密室芸に近いところがあり、具体的にどのようなことをやっているかが外から見えにくい。なので、社会的信頼や評判を毀損するような事件がおこったときは、制度の変更や新たな監査ルールの導入など、制度面でのテコ入れで改善したことをアピールすることになる。

本当は監査手法を画一的にするのではなく、ケースバイケースの対応がベストなのだが。。






2011年11月9日水曜日

オリンパスの投資有価証券


オリンパスは巨額買収と専門家報酬の合理性の問題が一転して粉飾決算問題となった。一旦、反論の適時開示(一連の報道に対する当社の見解について)をやったことにより、却って手の込んだ損失隠しをやっていたことを伺わせる結果となってしまっている。マネジメントは損失隠しへの関与の有無だけではなく、ウッドフォード前社長の解任後の対応によって企業価値を毀損させたことへの責任も問われることになるのではないだろうか?

詳細なスキームについては会見でも繰り返されていたとおり、第三者委員会による調査結果を待つしかないだろう。ただ社長会見詳報によれば、

「円高になり、売り上げが伸びず財テクに走った時期があった。そのような時期に始まった」 
(資金が反社会的勢力などに流れた可能性について)「森氏の報告によると外部には流れていない」
との発言がある。ここからは当初取得時は正しく記帳されていた投資がその後の時価下落によって含み損を抱え、その損失を何らかの方法で補填されていたというストーリーが推測される。

HPで公開されている有価証券報告書を見ると、2000年3月期の単体付属明細表にて出資金として"GC NEW VISION VENTURES L.P"(以下①)300億円が記載されている。一方で、貸借対照表において出資金は200年3月期に表示変更によって区分掲記されている。前期には投資その他の資産「その他」に263百万円計上されていたとあるので、出資金300億円は2000年3月期に記帳されていたものと思われる。

また、有価証券勘定の中にには"LGT Portfolio Management (Cayman) LTD. Global Investable Market "(以下②)が152億円計上されている。有価証券勘定残高は前期から著変動がないことから、当有価証券は前期以前に取得したものと思われる。

その後、2005年3月期にオリンパスの有価証券勘定は大きく変動している。流動資産の投資有価証券勘定が2004年3月末の349億円からゼロとなり、投資その他の資産に含まれる投資有価証券勘定(出資金含む)は615億円増加している。付属明細表を見ると、この期から"Strategic Growth Asset Management SG Bond Plus Fund"(以下③)が602億円計上されていることから、増加は恐らくこの分であろう。これら①から③の各期の計上額は以下のとおりである。



(有価証券報告書より 単位:百万円)
               ①              ②           ③


2000/3月期 30,000 15,247
2001/3月期 30,907 15,118
2002/3月期 28,018 15,275
2003/3月期 25,603 15,380
2004/3月期 24,681 15,465
2005/3月期 23,985 15,591 60,243
2006/3月期         15,677 59,278
2007/3月期         15,834 60,263
2008/3月期         15,863 60,607
2009/3月期                 61,440
2010/3月期                 61,823
2011/3月期



2011年3月期にて附属明細表から残高はなくなっている。貸借対照表上の投資有価証券も、525億円中502億円が株式となった。

おそらく、この①~③が損失先送りスキームと何らかの関連を持っているものと思われる。第三者委員会によって解明されてくるとおもうが、監査上はこれらの投資評価をどのように行なっていたのか、というのが議論となるところであろう。

2011年11月8日火曜日

リスクをきちんと評価することの難しさ

”リスク・アプローチ”という監査用語がある。
会計監査は精査ではなく試査である以上、リスクの高い領域とそうでないところのメリハリをつけて有効かつ効率的に監査をすすめるという方法論だ(詳しくはこちら)。

ここで言うリスクというのが、”監査で会計処理の誤りを発見できないリスク”として定義されているから監査用語になっているが、概念そのものは別に難しい話でもないと思う。優先度の高いものから取り組むというのは別に監査に限った話ではないし、実務を経験する前の受験生時代にもイメージしやすかったことを覚えている。

だが実際にやってみるとなかなか難しいなといつも感じるところだ。

リスクを評価するときには、まず典型的なリスクというのが出てくる。売上が架空計上されるリスクや架空の在庫が計上されるリスク、あるいは陳腐化した在庫の評価減が適切に行われないリスクとかである。どんな企業であっても売上高や利益を大きくするインセンティブはあるので、通常のビジネスに関連してリスクを識別していくことになる。

また、日常的な事業活動に関連しない取引や、突発的な事象に関連してもリスクを識別していくことになる。例えば今年であれば、東日本大震災による損害などが典型的であろう。突発的な事象や例外的な取引というのは慣れていない分会計処理を間違うことが多いから、リスクと識別されることになる。

さらに、近年は経営者による不正が増えてきており、”経営者が無茶をする”ことをリスクとして識別されることも多い。2011年9月には循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等についてが公表されているが、世間を騒がせるような粉飾事件が起こるとよりリスクの評価を厳しめに見ることが要求されることも多い。


こうして普通にリスクの洗い出しをやっていると、企業活動のありとあらゆる領域にリスクを識別することになる。リスクとして識別すると重点的に監査手続を実施することになるので、リスクを多く識別されればそれだけ工数が増加する。だが、これではそもそもリスク・アプローチを採用した意味がなくなってしまうので、ここからの調整に頭を悩ませることになる。本当にきっちりと見ないと見逃してしまいそうな所はやっぱりリスクとして残し、一般論としてはリスクと評価されるものでも監査先には当てはまらないと思えるような所はリスクから外したりもする。


何をリスクとして識別するかは監査工数を大きく左右するので、監査報酬とも大きく関連することになる。私自身は経験ないが、「経営者による不正リスクの対応のために監査工数が増えるので報酬アップをお願いします」と報酬交渉の場でいうケースは余程の場合だけだろう。如何に正確にリスク評価を行い、監査手続の”無駄撃ち”とならないようにするかを考えることは、監査という仕事の収益性を直接左右する重要な要素だと思う。

2011年10月8日土曜日

会計士の輸出とIFRS

最近、アジア各国の会計士と意見交換する機会があった。東南アジアを中心に生まれ育った国と別の国で働いている人が多く、英語でビジネスを行うアジアの国々の中では人材流動化が思っているよりも進んでいるのに驚いた。最近はフィリピンから香港、マレーシアからシンガポールなど、大きなチャンスのある地域への移動が増えていて、マレーシアでは空洞化による会計士不足の兆しも出てきているようだ。

なぜ、そういった移動が可能なのか?一番大きいのは言語のハードルがないことだろう。だが、会計士という仕事の特性も流動化を後押ししていると思う。会計士の仕事は一定のルールに従って財務諸表が作成されていることを確かめる仕事なので、一定のルール(会計基準や監査基準)に対する理解があれば、異国であっても仕事の内容に根本的な違いはないというのは大きいと思う。

一方で、日本では上場企業が減って業界のパイが小さくなったことから、人余りの状況となった。ここ数年は会計士試験合格者が監査法人に就職できない問題も起こっている。会計士協会は一般企業への就職促進を模索しているものの、日本企業の空洞化が既定路線となりつつある中では抜本的な問題解決にはならないだろう。更に大手法人のリストラが行われる中で、日本の会計士が日本では食えない時代は近づきつつあると思う。

確かに、海外で働く上で英語は大きなハードルだ。だが、会計士の仕事はサービス業の中でも比較的英語環境で働く上で楽な部類に入るのではないかとも思う。基本的に数字と勘定科目の世界だし、専門用語もそれほど多くはない。私自身は監査法人に入ってから英語を勉強を始めたくらいなので、それほど英語が得意でもないが、海外出張で現地の責任者に英語でヒアリングする程度は何とかなるものだ。

それよりも、日本人の会計士が海外で働くためのハードルとして、会計基準の違いが大きくなってくるのではないかと思う。現状、EUと違ってアジア各国の会計基準は統一されていない。だが、発展途上国では自国の会計基準が未発達である場合が多く、IFRSを導入するメリットが大きい場合が多い。そのため日本の動きとは逆にアジア各国でのIFRS適用が進んできている。日本のIFRS適用が遅れると、それだけIFRSに基づく監査実務の経験を持った会計士の育成が遅れることになる。そうなると、(ただでさえ英語が弱い)日本人会計士の国際的な競争力が劣化してしまうのではないだろうか?

会計監査サービスだけではなく、会計システム構築や決算関連コンサルティングなどを輸出産業にしようと考えるのであれば、IFRS導入は2015年でも早すぎるということはないと思う。

2011年8月28日日曜日

Googleの脳みそ 変革者たちの思考回路

Twitterで話題となっている本。本日(8月26日)現在ではAmazon・楽天ブックスともに在庫切れとなっており、かなり人気のようだ。タイトルからGoogleの経営スタイルを解説した本かな?と最初思っていたが、実際には法規制のあり方の問題に焦点を当てている。

「新興衰退国」となってしまっている日本の様々な問題点に触れ、新たなルールのあり方(「やる気システム」と本書では言っている)を提示している。日本の停滞についての問題意識については最近読んだ、「日本中枢の崩壊」とも似た部分があったが、本書では停滞を打破する方法として司法の役割にもフォーカスしている点に新しさを感じた。

タイトルのGoogleは「正面突破戦略」を採用する代表例として登場する。正面突破戦略とは、「新サービスが社会の要請に応えるものとの確信を胸に挑戦し、利用者からの支持や法定闘争などを通じて法的課題を克服していく作業」のこと。GoogleはYou tube、ストリートビュー、ライブラリープロジェクトなどで著作権法やプライバシーに関する法的リスクを積極的に取りに行ってきた。この背景にはイノベーションを追求する企業家の積極的な姿勢と、そういった姿勢を許容する風土やルール(フェアユース規定など)の存在を指摘している。

一読し、自分の仕事と関連して考えたのは、士業の整理解雇ルールの見直しである。

本書では、整理解雇の4要素(人員整理の必要性、解雇回避の努力義務、解雇対象者の妥当性、手続の妥当性)が非正規雇用の割合が増え、終身雇用の前提が崩れている現状とマッチしていないと指摘し、規制緩和を提言している。

昨今、大手監査法人でのリストラが相次いでいるが、いずれも希望退職を募集する方法での削減を行っているようだ。これは本書にもある整理解雇の4要素の「解雇回避の努力義務を果たす」ためだと推測する。

4要素への配慮が金科玉条のように扱われるべきでない点については同じ考えだ。特に会計士に限らず士業の世界は、多少給料が下がることを受け入れれば自分の専門領域でメシを食うことができるはずである。また、資格団体内や同業者との横のつながりもあり、一般的なサラリーマンとは異なる立場にある。率先して異なったアプローチによるリストラをやるのも一案だったのではなかっただろうか?監査法人で働く会計士の立場からすると厳しいのは確かだが、結局回りまわって日本が元気にならないと、監査業界の市場規模は縮小する一方だろう。

他にも色々思うところはあったが、またの機会にまとめようと思う。





2011年8月22日月曜日

東京電力の「事業等のリスク」

有価証券報告書には、投資家等の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を「事業等のリスク」として開示することになっている。東京電力の2010年3月期有報では以下のリスクが識別されていた。(以下抜粋)

(1)電気の安定供給
自然災害,設備事故,テロ等の妨害行為,燃料調達支障などにより,長時間・大規模停電等が発生し,安定供給を確保できなくなる可能性がある。その場合,復旧等に多額の支出を要し,当社グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があるほか,社会的信用を低下させ,円滑な事業運営に影響を与える可能性もある。
 
(2)原子力設備利用率
自然災害や設備トラブル,定期検査の延長等により原子力設備利用率が低下した場合,燃料費の高い火力発電設備の稼働率を必要以上に高めることとなり総発電コストが上昇する可能性がある。また,CO排出量の増加に伴い,追加的なコストが発生する可能性がある。この場合,当社グループの業績及び財政状態はその影響を受ける。
 
(3)原子燃料サイクル等
原子力発電の推進には,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処分,原子力発電施設等の解体を含め,多額の資金と長期にわたる建設・事業期間が必要になるなど不確実性を伴う。バックエンド事業における国による制度措置等によりこの不確実性は低減されているが,制度措置等の見直しや制度外の将来費用の見積額の増加,六ケ所再処理施設等の稼働状況,同ウラン濃縮施設に係る廃止措置のあり方などにより,当社グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性がある。
 
(4)安全確保,品質管理,環境汚染防止
当社グループは,安全確保,品質管理,環境汚染防止に努めているが,作業ミス,法令や社内ルールの不遵守等により事故や人身災害,大規模な環境汚染が発生した場合,当社グループへの社会的信用が低下し,円滑な事業運営に影響を与える可能性がある。
(※以下略)
さすがに「メルトダウンが生じるリスク」と言った表現ではないが、自然災害による大規模停電や原発利用率の低下などがリスクとして認識されていた点が興味深い。うがった見方かもしれないが、今の状況も想定されたシナリオの一つではなかったのではないかと思えなくもない。
個人投資家のうちどれだけの人が有価証券報告書を読んでいるかは微妙だが、2010年6月の時点で上記のリスクが開示されていた以上、東電の社債権者や株主はこれらリスクを踏まえて投資を行ったものと見做されても仕方ないだろう。

2011年8月18日木曜日

特捜検事ノート 河合信太郎


著者は元東京地検特捜部長で、本書は戦後の汚職事件を数多く手がけた経験に基づき捜査のあり方を綴っている。繰り返し述べているポイントは以下の3点である。

1、人に聞くより物を見よ
自白を求めることではなく証拠の収集と検討が第一でなければならない点を本書では何度も強調されている。証拠の詳細検討を行わずに自白を取ることを中心とした捜査は科学的・合理的なものではなく上滑りになりやすい点や、被疑者が犯罪事実を認めているという安心感から究明が不徹底となる点も強調している。

2、 不偏不党厳正公平な検察権の行使
「検察における不偏不党とは、検察権の行使は常に一党一派に偏することなく厳正中立であって、いささかもそれが疑われるようなことがあってはならない」
「これは国のためになる、これは国のためにならないだろうというようなことを狭い視野で政治的な配慮をするということは、検察の邪道である」

3、社会正義を実現する気概
「検察の問題は、つねに社会的に生命を奪うという厳粛な、重大な問題を議論するのだから、それを担当する主任検事も、これを決済する決裁官も、情熱を注ぎ込んで上滑りの報告、決裁ではなく、お互いに全身全霊を打ち込んで事件の内容と取り組むという心構えが欲しい」
「人を調べ、罪を懺悔させるというからには、取調官自身が、まず身を修め、誰の前に出ても犯罪に関する限り、その人を懺悔させ頭を下げさせるという確固たる信念を持つようにならなければならない」

本書を一読して思ったのは、著者が考えるあり得べき捜査を行っていれば、特捜検察が今のように批判されることはなかっただろうということだ。郵便不正事件以降、特捜検察は厳しい批判に晒されて、その社会的信頼は低下している。特捜検察への権限の集中、恣意的な国策捜査、検察の考えるストーリーへの強引な当てはめ、経済実態への理解不足、マスコミとの関係などが現在批判されているが、これらはいずれも本書が20年以上前に指摘していたものと重なる。

最近は特捜検察解体論を目にする機会も多いが、捜査機関としての能力低下が根本的な原因と考えると、若干違和感を感じる。結局のところ組織の質は構成する個々の人間の質で大半が決まる。だから、より良い社会のためにどのような制度がベストなのかという議論と同じくらい、その運用をどのように担保するのかといった観点は重要だ。20年以上前の先人の理念が現在に受け継がれていないことに対する批判がもっとあっても良いのではないだろうか。

2011年8月15日月曜日

日本中枢の崩壊


遅まきながらお盆休みを利用して読了。著者は経済産業省の官僚で、官僚組織の意思決定プロセスの実態を明かすと共にその問題点を具体的に指摘している。批判一辺倒ではなく、具体的な政策提言を行っている点が単なる暴露本と違う所だ。


電力産業の発送電分離、中小企業に比べて過剰な農業保護への批判、また市場競争力を失っている企業への補助による競争阻害批判などは、主張の通りだと思う。


読了後にまず感じたのは、リーダーシップ不在でミドル層にまでリスクを取らない風土が蔓延しているのは官僚組織だけでないということ。本書では「慎重に検討」「前向きに検討」といった婉曲な表現が官僚用語として上げられているが、今やこれらの言葉は一般用語化していると感じた。


日本人は「組織力が強みだ」と自画自賛することが多い。政府にはとりわけその傾向が強い。個人で戦うことに地震がないのでチームワークをことさら強調する。しかし、日本の強みはチームワークの「和」ないし「協調性」の部分であり、たとえば、組織としての決断力、俊敏性、行動力などにおいては、欧米の政府や企業に比べて明らかに劣っているということをあまり自覚していない。


問題は日本的な組織風土を変えるための手段。筆者は総理大臣によるリーダーシップを期待しているが、理想の人物が総理大臣になり続けるような国になるには、今の価値観や危機意識が変わらないと難しいだろう。ニワトリが先か卵が先かという話になるので、私はもっと危機的状況になるまでは変わらないと半ば諦めている。


それと読んでて感じたのは、政策の良否を評価する手法の開発と共通化にもっと取り組むべきだということ。NTTの売却益を原資として2千数百億円をベンチャー支援として無駄にした話がでているが、一般企業では全くあり得ない。政策の効果をキチンと測定して評価する仕組が欠如していることの証左だろう。


事業仕分けはこういった問題意識から始まったものであるが、その効果の測定方法が一般企業に比べると不正確だと思える。例えば大阪港の利用促進事業の事業シートでは、海外駐在員及び国内海運専門紙への企画広告、パンフレット製作の効果を大阪港における外貿コンテナ取扱貨物量の推移で判定している。実施事項と成果との因果関係が弱く評価指標として不適切であるし、コンテナ数の増加が最終的に税収とどのように関係しているのかも分からない。

コンテナ取扱貨物量の増加が最終目標であるなら別だが、事業シートでは大阪市の産業活動の活性化とある。例えば大阪港を使った輸出入を行っている事業所の売上高伸び率を取るとか、これら事業所にアンケートを取ってキャンペーン先の国との取引引き合いがあったかどうかを確認するとかすべきだ。


事業仕分けでその成果を判定するための指標の決め方について、栗東市の事業シート作成マニュアルでは以下記述がある。これでは具体性に欠けるし他の自治体で行っている同種の事業との比較が困難である。



【成果指標設定の留意点】
    ・成果の内容(市民生活にどのような効果があったかなど)を表わしている。
    ・活動指標(行政が実際に行った業務量)になっていない。
    ・実際に計測できる。
    ・民間の活動など他の要因が指標の値に大きな影響を及ぼしていない。
    ・経年変化が把握可能である。
    ・正確かつ適時に、低コストで計測できる。
    ・事務事業の目標到達度把握に使用可能なものである。
    ・市民が容易に理解できるものである。
    ・満足度のような比較が困難な数値はできるだけ使わない。
    ・データがとりやすいという理由で、施策と関係のない指標を設定しない。
    ・指標の数値の大小にこだわらない。
    ・事業が完了しないと成果が測れない(道路・施設建設、区画整理など)の場合は、毎年度測れるものを設定して代用する。
一般企業の管理会計のように投資の成果を対象事業の売上高で測定できない面で難しさはあるが、より効率的かつ客観的な手法を早期に開発すべきであろう。







2011年8月13日土曜日

税理士法改正反対署名依頼に思うこと

8月12日に日本公認会計士協会から会員・準会員宛に「税理士法改正反対署名へのご協力のお願い」が行われている。これは日本税理士連合会の「税理士法に関する意見(案)」において、”税理士になる公認会計士については、税法に属する科目のうち税理士試験において必須科目である所得税法又は法人税法のいずれか1科目の合格が必要である。”との改正を目指していることへの反対を行うものだ。


実際には税務実務の経験があっても、税理士試験を通るためには特別なトレーニングが必要だ。(例えは変だが、プロの歌手がカラオケでいい点とれないのと似たものだと思う。)税理士試験の所得税と法人税の合格率は10%ちょっとなので、この改正が通ると公認会計士が税理士業界に参入する上で大きなハードルができることになるだろう。


2年前くらいから、日本は上場企業が減る一方だ。ただでさえ監査業務の市場が縮小して人が余っているところに、税理士業界への転身にハードルを設けられるとかなり困るというのが今回の背景である。ただ、利害関係者である公認会計士協会が署名を集めても、世論の同調を得られるかはかなり微妙だ。私は会計監査の世界でメシを食って9年くらいたつが、今回の署名に参加する気にはなれない。

でもシンプルに考えれば、余程会計士から転身した税理士の能力に問題があるのでないなら、参入障壁を設けて税理士業界の活性化や競争が生まれるとは思えない。だから私は今回の改正案には反対だが、そもそも制度の立て付けをもっと自由なものに変えたほうがいいと思う。


1,税法を社会科の一部として高校のカリキュラムに入れることを制度化する。
2,税理士と会計士試験を一本化する。
3,科目合格制とし、1科目でも持っていれば資格保有者として公的資格を付与する。ただし、合格した科目がわかるようにする。
4,資格保有以降の実務経験を全て公開することを義務付ける。


そもそも、税理士という仕事は納税者の代理人である。依頼人である納税者の税金に関する知識が乏しいと、税理士がキチンと仕事をしているかどうかも分からない。だから、今までは資格試験によってその信頼性を担保しなければならなかったわけだ。高校くらいで税金について勉強してもらうのは決して生きる上で無駄にならないし、税務専門家への要求水準が向上する点でも意義あることだと思う。


一方、ここ20年で日本の会計ルールは急速に複雑化している。また、昨今話題の国際会計基準が適用されれば資格試験を通った時の知識の大部分が役に立たなくなる。税務の世界でも、国際的な企業の税務問題を扱う上では海外税務の知識が欠かせない。税理士や会計士が「会計・税務の何でも屋」であった時代は過去のもので、医者と同じようにそれぞれが得意な領域を持ち、専門外はそこまで強くないのが現実である。

今はまだ一般的な理解でないかもしれないが、そのうち「税理士」や「会計士」といった肩書きを持ってても、安心して仕事を任せることができないと思う人が増えるだろう。それは試験合格者の質の劣化によって起こるものではなく、必要な知識の拡大・細分化によって当然生じるものだ。

なので、「税理士」や「会計士」という肩書でできる業務範囲を決めるのではなく、具体的な専門知識や経験を全て開示して、何をやってもらうかは顧客が決めればいいと思う。

2011年7月24日日曜日

IFRS適用とはIFRSベースで帳簿を付けることなのか?

国際会計基準の強制適用が当面なくなる見込みとなった。
会計業界では盛り上がった適用可否の議論も一旦落ち着いて来た感があるが、議論の前にIFRS適用のイメージをもっと明確にすべきだったのではと思う。

通常、財務諸表は以下の手順で作成される。
① 日常的な経営活動(売上、仕入、経費支払など)に対して会計伝票を入力する。
② 入力した伝票を集計して、決算整理前の試算表を作成される(通常は会計システムで自動作成)
③ 決算修正仕訳(減価償却費の計上、引当金の計上、税金計算など)を入力する。
④ 決算整理後の試算表を開示する財務諸表に組み換えする。

IFRSを適用するということは、上記の①をIFRSベースで入力することによって作成することを意味しない。通常は③の後で従来の日本基準とIFRSの差異を入力する。もちろん①の段階でIFRSベースとすることで対応も可能であるが、日常的な処理の全てを変えるよりも決算処理だけが変更される方が、これまでの業務からの変動が小さく低コストで対応出来るからである。

また、この会計基準の差異調整は、ありとあらゆる差異を全て調整する必要はない。結局のところ、財務諸表は読み手の意思決定のための情報なのだから、情報に影響が生じない些細な差異まで調整する意味はないのだ。通常は金額的な影響が小さければ余程質的に重要なものでない限り調整対象にはなってこない。米国会計基準への調整などでも一般的である。

IFRSで財務諸表を作るということは、世界の様々な国がそれぞれの基準で作られる財務諸表を共通の基盤に乗るように翻訳する作業に近いものだ。それぞれの会計慣行や基準に従って作られ、様々な様式で開示される財務諸表は、処理方法や開示される情報で異なる部分があるため比較がしにくい。それを何とかするために共通言語を設定しよう、というのが元々のスタートだったはずだ。

細かい個々の基準の差異やIT投資や事務処理負担の議論ばかりが先行しているが、何か論点の順がズレているような気がしてならない。所詮は翻訳の世界なのだから、意味が通じるなら多少の誤訳があっても伝わればOKと割り切ることが何故できないのだろうか?

2011年7月18日月曜日

特捜神話の終焉

元検事の郷原信郎氏と元被告人である堀江貴文・細野祐二・佐藤優各氏との対談。
各氏のケースを通じて検察の問題を浮き彫りにしている。
指摘されている問題点はさんざん目にしてきたものだったのでそれほど目新しさはなかったが、細野氏の対談で出てきた小沢一郎氏の政治資金報告書のところが面白かった。細野氏は、政治資金報告書が単式簿記であることに触れた上で、以下のように説明している。
・2004年に小沢氏から石川氏に現金で渡った4億円は、返済期間も金利も設定されていなかったのであるから、仮受金として処理すべき。借入金は政治資金報告書の記載項目ではないため書かなくて良い。 
・世田谷の土地購入後、陸山会は別の政治団体から資金を集め、4億円の定期預金を積む。小沢氏はこの定期預金を担保に4億円を銀行から借りて陸山会に貸付している。会計的には4億円の仮受金を定期預金4億円で返済したことになる。

問題をややこしくしたのは、4億円の銀行借入をおこなった者(小沢氏)と担保資産を保有する者(陸山会)が異なった点だったと思う。細野氏の言うとおり、定期預金によって小沢氏からの仮受金の精算を行ったとみることもできるし、逆に担保提供している定期預金が陸山会に帰属する資産であることを理由に、小沢氏名義での借入を実質的に陸山会に帰属する負債と擬制することも一案だろう。

いずれにしても、銀行は陸山会と小沢氏個人が実質的に同一として融資している実態があるのに、政治資金報告書を陸山会単体でつくらせる所がナンセンスなのだと思う。


2011年4月29日金曜日

マツダ 11年3月期 繰延税金資産取り崩し

マツダの11年3月期当期損益は600億円の赤字、無配に転落

11/3期の決算発表では震災による被害を各社織り込んでいるが、マツダは結構珍しいパターンだ。災害による損失52億円などの特別損失を計上した中、販売好調の影響で税金等調整前純利益は160億円確保できたのに、繰延税金資産を566億円取り崩したため当期純損失を計上しているのだ。

適時開示を見ると、 ”今回の東日本大震災による来期以降の当社業績への影響が不透明であることから”取り崩ししたとある。詳細な経緯は開示されていないので推測するしかないが、恐らくかなり保守的な会計処理を監査法人に押し通したのか、逆に監査法人からの強い要請で元々回収可能性が怪しかった繰延税金資産を震災に絡めて落とすことになったかのどちらかというパターンが推測される。

マツダの10/3期有価証券報告書を見ると、10/3期末で税務上の繰越欠損金に係る将来減算一時差異が825億円ある一方、評価性引当金を599億円見ている。また、前期の決算発表を行った時点での業績予想は決算短信によれば50億円の当期純利益であった。このことは2つのことを意味している。
① 仮に評価制引当金が全て繰越欠損金に対するものだと仮定しても、200億円以上の一時差異に対して繰延税金資産を計上している。
② 50億円の純利益予想から税前利益の予想値は100億円前後と見込まれるので、11/3期の一年間で獲得すると見込まれる課税所得よりも回収可能と見込まれる将来減算一時差異は多い。

従って、10/3期決算の繰延税金資産計上に当たっては、繰延税金資産を1年分以上計上しており、昔りそな銀行で話題となった会社区分が3か4但し書きで取り扱われていたものと推定される。繰越欠損金のボリュームから会社区分が2である可能性は低いので。(連結で計上されている繰延税金資産1475億円のうち、親会社で1260億円計上しているので、子会社のことは考慮外)

マツダは今回の決算発表で12年3月期の業績予想を発表していないが、業績予想を出さない会社はそれほど多くない。また、そもそも税効果会計を適用するためには、将来の課税所得を見積もる必要があり、それができない状況で決算するというは本来有り得べき姿ではないと思う。そう考えると、業績予想を出さないのは株式市場に対するコミットを避けたと見るのが自然で、社内的には震災を織り込んだ業績予測数値は持っているのではないだろうか?

とすると、”東日本大震災による来期以降の当社業績への影響が不透明であることから”というのは、来季以降の課税所得が全く見積もれないからということではなくて、会社区分の引き下げを行ったからだと思う。

つまり、10/3期は会社区分が3か4但し書きであったものを、地震影響によって4本文にまで落としたのだと推定できる(区分5だと繰延税金資産を全て取り崩すことになるので)。今回の地震が業績に与える影響は通常一時的だとも考えられるので、恐らく多くの会社は将来の課税所得見積もりを引き下げるだろうが、地震を理由とした4本文への引き下げは少ないのではないか。

業績の影響が不透明な会社は決算発表が遅くなるケースが多いと思われるので、5月中盤以降に発表する会社の状況に注目したい。


2011年4月27日水曜日

在宅勤務はなぜ広がってこなかったのか?

節電対策として在宅勤務が広がってきている。

NTT全社的在宅勤務 夏の節電へ8社5万人

ソフトバンクグループ、社員の在宅勤務で夏場の節電


在宅勤務によって、まず通勤電車の電力が浮く。オフィスビルの空調は自宅のエアコンより効率的だが、ゆるい格好で仕事できるので設定温度はオフィスビルほど下げなくても行けるだろう。人によってはオフィスビルの冷房が寒すぎることもあるので、各自が好みの温度設定した環境で仕事したほうが効率的な電力消費だと思う。また、雇用者からすると電力代や通勤代の節約ができるし、オフィスの面積を小さくして賃借料のコストダウンもできる。

こう考えるとメリットばかりが目に付くが、25%節電の話がでるまで導入が進まなかったのはなぜだろうか?ぼんやり考えて思いつくのは以下くらいだ。

① 同僚がどのようなを仕事を行っているか分からないので。職場の一体感を醸成しにくい。
② face to faceのコミュニケーションができない。特に新入社員へのOJTを実施しにくい。
③ 各従業員が協力してひとつのタスクに対応する場合、メンバー相互に頻繁にコミュニケーションを行うため非効率的。

私も在職中の組織で部門長に在宅勤務の提案を地震後におこなったが、結局のところは説得できなかった。周りの50代位の世代をみていると、やっぱり直接顔を付きあわせたコミュニケーションがベストで、電話やメールは副次的なものだという考えがあり、ここが変わらないから在宅勤務が広がらないのではないかと思う。

まずはあまりメンバー相互のコミュニケーションがあまり必要としない、給与計算とか経理とかの専門的な事務仕事から在宅勤務が広がっていくとは思う。でも本格的な拡大は、全社的なITリテラシーが高い会社の成功事例が出始めてからだろう。NTTやソフトバンクは停電問題が解消したあとも積極的に在宅勤務を進めてそのコスト削減額を開示していって欲しい。

ホリエモン上告棄却

ホリエモンの上告棄却が決まった。夕方やっていた記者会見を観たが、世の中は不条理に満ちていると達観する姿が印象的だった。
堀江貴文氏緊急記者会見 主催:自由報道協会

問題となった投資事業組合が行ったライブドア株売却益は、ホリエモンのブログでも触れている通り会計上議論があるところだと思う。

投資事業組合を連結範囲に含めるかどうかの論点では、業務執行社員が出資者と緊密な者に該当するかどうかがキーとなる。緊密な者というのは”自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者”が定義である。実務上は状況を個別に判断することになる。

実際に上場企業の決算をやっていれば常識の話だが、決算では見積や判断の影響が非常に大きい。また、会計基準は全てを細々と規定したものでなく、会計基準を実際に決算で運用するためには、それぞれのルールを補完する社内ポリシーを整備する必要がある。ライブドアの自己株式売却益の論点は、少なくとも当時の会計上は十分グレーな領域で、連結範囲に含めないからといって明らかに粉飾と言えるレベルなのだろうか?

今後、会計基準は複雑さを増すなかで、粉飾かどうかの認定を検察が行うのは無理だと思う。また、その弁護を弁護士主導で行うのも難しいと思う。会計士が経済事件の究明に積極的に関与する仕組みが必要だ。また、会計士業界でもセカンドオピニオンを積極的にだして、ある事象に対して常に唯一無二のあるべき処理が存在するのではないことを世間の常識にすべきだと思う。

今回の実刑判決はどう考えても不条理で気の毒な話だと思う。今の社会構造はそうすぐに変わりそうにもないので、早くシャバに戻ってバリバリやって欲しい。

2011年4月25日月曜日

寄付がアマチュアスポーツを支える時代へ

大学時代、ボート部に所属していた。ほとんど年中合宿所に寝泊りし、毎朝5時に起きて練習する日々。ボートが生活の全てだった毎日はしんどいことも多かったが、幸せな日々だった。

昨日、10年ぶりくらいにOB会に出席した。ボートを取り巻く環境が徐々に厳しくなってきていることを改めて感じた。大学からの交付金は年々縮小傾向。文系の学生は就職活動があるため、体育会に入るのは殆どが理系の学生だそうだ。また、スポーツ施設の利用料は税収減少を受けて毎年値上げを余儀なくされている。空前のマラソンブームは健康志向だけが理由でなく、手っ取り早いというとこもあるのかもしれない。

企業の決算シーズンが始まり、大手企業の東日本大震災による影響が出始めている。影響が上半期にとどまり下期は回復を見込む企業が多い。でも、自粛ムードや増税による消費意欲減退に加えて電力代金の値上げをどこまで折りこんでいるのだろうか?復興需要が見込まれる業界以外は、普通の手を打っただけで元のレベルに戻ることはないとみるべきだろう。

野球、バレーボール、サッカーのようなメジャースポーツはプロ化と地域密着で支えられている。剣道や柔道、陸上競技は学校教育で支えられている。それら以外のアマチュアスポーツは、税収や補助金の影響をもろに受ける。だから、今後のあり方を今考える必要があると思う。基本的にはマイナースポーツほど、広く寄付を集める仕組みを急いで構築すべきだと思う。

2011年4月24日日曜日

テレビディレクター 田原総一朗

文庫は絶版になっていて、アマゾンでは中古で2万円近くになっている小説。
アゴラブックスで電子書籍として復活してたので早速読んでみた。
http://www.agora-books.com/detail/000000000003001.jsp



少年院を出所した後の社会復帰をテーマにしたドキュメンタリーの顛末を描いたもの。文庫版は”小説”が付いていたが、時を経てノンフィクションとして再出版したようだ。商業番組のディレクターとしての立場と、ドキュメンタリーの製作者としての立場との葛藤が正直に描かれている。

客観的な第三者として向き合うのではなく、正面から対象にぶつかる姿を映像化する手法を職業として続けることに驚く。著者にとって番組制作は労働ではなく自己表現。その彼が当時盛り上がっていた労働組合との議論する場面の描写が印象的だった。

読後まず感じるのは、1960年代後半の熱さ。番組制作に関わる一人ひとりが哲学や美学を持っていて、延々と議論が続いてクドい位。一方で、熱い現場がうらやましい。

少年院では「シャバにでた後に、古い友人を捨て、過去を捨てる」こと学ぶ。それでも少年院を出た人間の多くは再び戻ってくる。テレビディレクターとして、そこに問題意識を見出すのは自然だと思う。でも、実際にはその思いを映像化する過程ですれ違いが生じる。

実際の番組を今では見れないので推測に過ぎないが、ドキュメンタリーの顛末を描いた本書と比べて、実際の番組はしょっぱい感じだったと推測する。リンク先の独白の方がこの本よりも迫ってくるものがあった。インタビュアーは黒子になって、独白のような形を撮るほうがよかったと思う。

http://blog.livedoor.jp/blog_ch/archives/50489867.html

2011年2月27日日曜日

SNS初心者が読んでみた「フェイスブック 若き天才の野望」

遅まきながら「ソーシャル・ネットワーク」を見てきた流れで読んでみました。映画と同様、アメリカのITベンチャーのイキイキとした雰囲気とスピード感が出ていて、500ページくらいでしたが一気に読みました。



映画では少し偏屈なコンピュータマニアとして描かれてる部分もありましたが、本を読むとザッカーバーグの独特の世界観が良くわかります。マネタイズよりもクールさを追求し、フェースブックに広告を載せたがらなかったエピソードは典型的です。

他のSNSとの大きな違いである実名主義についても、彼の信念を反映しています。
2種類のアイデンティティーを持つことは不誠実さの見本だ
自分が誰であるかを隠すことなく、どの友達に対しても一貫性をもって行動すれば、健全な社会づくりに貢献できる。
Twitterは会ったこともない人から自分のつぶやきに反応してもらったりするのが楽しいですが、フェースブックはリアルの人間関係をネットで表現して相互作用を起こすことを目指しています。実際に使ってみると、疎遠になってた人とつながったりするのが面白いです。

インターネットが一般的になってきてた90年代後半の頃は、実名でもネット上だけ妙に論戦好きだったり、リアルからキャラクターが豹変する人が結構いたように思います。でも生まれたときからネットがある世代が社会に出てくるようになって、そのあたりが徐々に変質してきてるんじゃないかと思います。私の周りでは、40代半ば以上のオヤジ世代は昔からあんまり変わらない気もするけど、20代の人はネットで人格豹変する人をあまり見ないし。そういう意味で2011年になってフェースブックが日本で流行しているのは来るべくしてきたものであって一時的なものではないと思うし、オヤジ世代はともかく日本でも実名主義は普通に定着してくると思います。

 また、Googleとの違いについてもわかり易く解説されています。
グーグル(中略)は、ユーザーが欲しいとすでに決めているものを探す手助けをする。これに対してフェイスブックは、ユーザーは何が欲しいかを決める手助けをする。
「検索をしたくなるような広告」が出来ること、ユーザ情報に基づき「検索をしたくさせる対象」を絞り込むことが出来ること、がGoogleには出来ないフェイスブックの強みなのです。

個人的には未だ使いこなせてないフェースブックですが、本を読んでから触ってみると楽しみが広がると思います。

2011年2月25日金曜日

専門職業界とTPP

この間見ていたニコニコ生放送で岩上安身さんが「マスコミではあまり話題になっていないが、TPP参加で医者や弁護士といった専門家の世界も大きく変わる。」との発言がありました。
興味があったのでググってみたら、10年間の猶予期間があるけど医師、弁護士、公認会計士といった資格が、どの国でも認められることになるようです。

また、ニュージーランド外務省でTPPの主要合意書が見れるのでざっと見てみました。

5. As set out in Annex 12.B, the Parties agree to facilitate the establishment of
dialogue among their regulators and/or relevant industry bodies with a view to the
achievement of early outcomes on recognition of professional qualifications and/or
professional registration.
  Such outcomes may be achieved through
harmonisation, recognition of regulatory outcomes, recognition of professional
qualifications and professional registration awarded by one Party as a means of
complying with the regulatory requirements of another Party whether accorded
unilaterally or by mutual arrangement, including where appropriate through an
Implementing Arrangement.
6. The initial priority areas for work on professional qualification and
professional recognition requirements  are engineers, architects, geologists,
geophysicists, planners, and accountants.
 The priority areas and the recognition
outcomes achieved on priorities shall be reviewed within the time periods set out in
Article 12.9.
上記を見る限りは、専門資格の相互認証を業界団体と議論して推進しましょう、というレベルのようです。また、いわゆる専門職業界の中でも優先順位をつけて取り組みましょうということのようですね。ただ、上記は2005年に当初4カ国(シンガポールブルネチリニュージーランド)で行った合意書で、その後変更あったのかは追っかけ切れていませんが。。


いきなりアメリカやチリの医者や弁護士や会計士が日本で開業するって話には多分ならないと思いますが、TPPに参加する限りいずれはそうなるって考えたほうが良さそうです。


でも多分一番大きいインパクトは、安い賃金で働く外国人専門家が日本市場に参入することによりも、日本の専門資格の高い壁が崩れることだと思います。弁護士や会計士試験の合格率はアメリカよりもかなり低いですが、TPP参加各国との整合性とる中で下がるはずです。実務に必要な知識や経験は実務でしか身につかないので、入り口の資格試験を厳しくすることで業界全体の品質を担保するというのは、そもそもナンセンスだと思います。ですんで、日本の資格試験制度がスタンダードになる可能性は低いと思う次第です。

2011年1月5日水曜日

影響力の武器 実践編 「イエス!」を引き出す50の秘訣

サブタイトルのとおり、「イエス」を引き出すためのノウハウ集。事例とともに心理学的な側面からの解説を行っており、サクサクと読める。「影響力の武器 第二版」の続編の位置づけであるが、実践編だけをでも特に理解に問題はない。

一対一でおこなう交渉、説得や要請というのは、個別対応による影響が大きいと思っていたので、一般的に有効なノウハウがあることが興味深かった。特に一貫性の原理(一貫していたい、一貫していると見てもらいたいという欲求)はナルホドと思った。

本書では一貫性の原理の例として「気に入らない相手に何かを頼むことで、相手はより好意的に自分を見るようになる」があった。これは人は自分の行動と考え方の一貫性を保とうとするから、好意を持つ人へ親切にするのと同様に、親切な行動をとればその人に好意を持つようになるとのこと。ちょっとした工夫が大きな成果を生むところが面白い。

また、読後に改めて思ったが、流行のビジネスも「影響力の武器」を利用しているように思う。
たとえばグルーポンでは以下のような工夫が見て取れる。

1、社会的証明の原理
共同購入を成立させるためユーザーがSNSを使った拡散を行うように誘導している。SNSを通じた購入要請は「社会的証明の原理」(人は迷ったときに周りに目を向けて他人の行動を手本にする。ここで証言する人が聞き手と似ていれば似ているほど説得力が増す。)による効果が見込まれる。

2、希少性の原理
共同購入の募集時間を限定することで、希少性の原理(手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくる)を利用している。

ただ、2は類似サービスを行っている他業者と基本的に差はないし、1も例えば拡散を行ううえでのキーマンが他のサービスに乗り換える可能性があるわけだから、差別化がなかなか難しいようにも思える。ホリエモンが半額東京と組んでるみたいに拡散する上でのキーマンとグルーポンサービス会社が組むとか、アフィリエイトみたいなものを導入するとかだろうか。







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