2011年4月29日金曜日

マツダ 11年3月期 繰延税金資産取り崩し

マツダの11年3月期当期損益は600億円の赤字、無配に転落

11/3期の決算発表では震災による被害を各社織り込んでいるが、マツダは結構珍しいパターンだ。災害による損失52億円などの特別損失を計上した中、販売好調の影響で税金等調整前純利益は160億円確保できたのに、繰延税金資産を566億円取り崩したため当期純損失を計上しているのだ。

適時開示を見ると、 ”今回の東日本大震災による来期以降の当社業績への影響が不透明であることから”取り崩ししたとある。詳細な経緯は開示されていないので推測するしかないが、恐らくかなり保守的な会計処理を監査法人に押し通したのか、逆に監査法人からの強い要請で元々回収可能性が怪しかった繰延税金資産を震災に絡めて落とすことになったかのどちらかというパターンが推測される。

マツダの10/3期有価証券報告書を見ると、10/3期末で税務上の繰越欠損金に係る将来減算一時差異が825億円ある一方、評価性引当金を599億円見ている。また、前期の決算発表を行った時点での業績予想は決算短信によれば50億円の当期純利益であった。このことは2つのことを意味している。
① 仮に評価制引当金が全て繰越欠損金に対するものだと仮定しても、200億円以上の一時差異に対して繰延税金資産を計上している。
② 50億円の純利益予想から税前利益の予想値は100億円前後と見込まれるので、11/3期の一年間で獲得すると見込まれる課税所得よりも回収可能と見込まれる将来減算一時差異は多い。

従って、10/3期決算の繰延税金資産計上に当たっては、繰延税金資産を1年分以上計上しており、昔りそな銀行で話題となった会社区分が3か4但し書きで取り扱われていたものと推定される。繰越欠損金のボリュームから会社区分が2である可能性は低いので。(連結で計上されている繰延税金資産1475億円のうち、親会社で1260億円計上しているので、子会社のことは考慮外)

マツダは今回の決算発表で12年3月期の業績予想を発表していないが、業績予想を出さない会社はそれほど多くない。また、そもそも税効果会計を適用するためには、将来の課税所得を見積もる必要があり、それができない状況で決算するというは本来有り得べき姿ではないと思う。そう考えると、業績予想を出さないのは株式市場に対するコミットを避けたと見るのが自然で、社内的には震災を織り込んだ業績予測数値は持っているのではないだろうか?

とすると、”東日本大震災による来期以降の当社業績への影響が不透明であることから”というのは、来季以降の課税所得が全く見積もれないからということではなくて、会社区分の引き下げを行ったからだと思う。

つまり、10/3期は会社区分が3か4但し書きであったものを、地震影響によって4本文にまで落としたのだと推定できる(区分5だと繰延税金資産を全て取り崩すことになるので)。今回の地震が業績に与える影響は通常一時的だとも考えられるので、恐らく多くの会社は将来の課税所得見積もりを引き下げるだろうが、地震を理由とした4本文への引き下げは少ないのではないか。

業績の影響が不透明な会社は決算発表が遅くなるケースが多いと思われるので、5月中盤以降に発表する会社の状況に注目したい。


2011年4月27日水曜日

在宅勤務はなぜ広がってこなかったのか?

節電対策として在宅勤務が広がってきている。

NTT全社的在宅勤務 夏の節電へ8社5万人

ソフトバンクグループ、社員の在宅勤務で夏場の節電


在宅勤務によって、まず通勤電車の電力が浮く。オフィスビルの空調は自宅のエアコンより効率的だが、ゆるい格好で仕事できるので設定温度はオフィスビルほど下げなくても行けるだろう。人によってはオフィスビルの冷房が寒すぎることもあるので、各自が好みの温度設定した環境で仕事したほうが効率的な電力消費だと思う。また、雇用者からすると電力代や通勤代の節約ができるし、オフィスの面積を小さくして賃借料のコストダウンもできる。

こう考えるとメリットばかりが目に付くが、25%節電の話がでるまで導入が進まなかったのはなぜだろうか?ぼんやり考えて思いつくのは以下くらいだ。

① 同僚がどのようなを仕事を行っているか分からないので。職場の一体感を醸成しにくい。
② face to faceのコミュニケーションができない。特に新入社員へのOJTを実施しにくい。
③ 各従業員が協力してひとつのタスクに対応する場合、メンバー相互に頻繁にコミュニケーションを行うため非効率的。

私も在職中の組織で部門長に在宅勤務の提案を地震後におこなったが、結局のところは説得できなかった。周りの50代位の世代をみていると、やっぱり直接顔を付きあわせたコミュニケーションがベストで、電話やメールは副次的なものだという考えがあり、ここが変わらないから在宅勤務が広がらないのではないかと思う。

まずはあまりメンバー相互のコミュニケーションがあまり必要としない、給与計算とか経理とかの専門的な事務仕事から在宅勤務が広がっていくとは思う。でも本格的な拡大は、全社的なITリテラシーが高い会社の成功事例が出始めてからだろう。NTTやソフトバンクは停電問題が解消したあとも積極的に在宅勤務を進めてそのコスト削減額を開示していって欲しい。

ホリエモン上告棄却

ホリエモンの上告棄却が決まった。夕方やっていた記者会見を観たが、世の中は不条理に満ちていると達観する姿が印象的だった。
堀江貴文氏緊急記者会見 主催:自由報道協会

問題となった投資事業組合が行ったライブドア株売却益は、ホリエモンのブログでも触れている通り会計上議論があるところだと思う。

投資事業組合を連結範囲に含めるかどうかの論点では、業務執行社員が出資者と緊密な者に該当するかどうかがキーとなる。緊密な者というのは”自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者”が定義である。実務上は状況を個別に判断することになる。

実際に上場企業の決算をやっていれば常識の話だが、決算では見積や判断の影響が非常に大きい。また、会計基準は全てを細々と規定したものでなく、会計基準を実際に決算で運用するためには、それぞれのルールを補完する社内ポリシーを整備する必要がある。ライブドアの自己株式売却益の論点は、少なくとも当時の会計上は十分グレーな領域で、連結範囲に含めないからといって明らかに粉飾と言えるレベルなのだろうか?

今後、会計基準は複雑さを増すなかで、粉飾かどうかの認定を検察が行うのは無理だと思う。また、その弁護を弁護士主導で行うのも難しいと思う。会計士が経済事件の究明に積極的に関与する仕組みが必要だ。また、会計士業界でもセカンドオピニオンを積極的にだして、ある事象に対して常に唯一無二のあるべき処理が存在するのではないことを世間の常識にすべきだと思う。

今回の実刑判決はどう考えても不条理で気の毒な話だと思う。今の社会構造はそうすぐに変わりそうにもないので、早くシャバに戻ってバリバリやって欲しい。

2011年4月25日月曜日

寄付がアマチュアスポーツを支える時代へ

大学時代、ボート部に所属していた。ほとんど年中合宿所に寝泊りし、毎朝5時に起きて練習する日々。ボートが生活の全てだった毎日はしんどいことも多かったが、幸せな日々だった。

昨日、10年ぶりくらいにOB会に出席した。ボートを取り巻く環境が徐々に厳しくなってきていることを改めて感じた。大学からの交付金は年々縮小傾向。文系の学生は就職活動があるため、体育会に入るのは殆どが理系の学生だそうだ。また、スポーツ施設の利用料は税収減少を受けて毎年値上げを余儀なくされている。空前のマラソンブームは健康志向だけが理由でなく、手っ取り早いというとこもあるのかもしれない。

企業の決算シーズンが始まり、大手企業の東日本大震災による影響が出始めている。影響が上半期にとどまり下期は回復を見込む企業が多い。でも、自粛ムードや増税による消費意欲減退に加えて電力代金の値上げをどこまで折りこんでいるのだろうか?復興需要が見込まれる業界以外は、普通の手を打っただけで元のレベルに戻ることはないとみるべきだろう。

野球、バレーボール、サッカーのようなメジャースポーツはプロ化と地域密着で支えられている。剣道や柔道、陸上競技は学校教育で支えられている。それら以外のアマチュアスポーツは、税収や補助金の影響をもろに受ける。だから、今後のあり方を今考える必要があると思う。基本的にはマイナースポーツほど、広く寄付を集める仕組みを急いで構築すべきだと思う。

2011年4月24日日曜日

テレビディレクター 田原総一朗

文庫は絶版になっていて、アマゾンでは中古で2万円近くになっている小説。
アゴラブックスで電子書籍として復活してたので早速読んでみた。
http://www.agora-books.com/detail/000000000003001.jsp



少年院を出所した後の社会復帰をテーマにしたドキュメンタリーの顛末を描いたもの。文庫版は”小説”が付いていたが、時を経てノンフィクションとして再出版したようだ。商業番組のディレクターとしての立場と、ドキュメンタリーの製作者としての立場との葛藤が正直に描かれている。

客観的な第三者として向き合うのではなく、正面から対象にぶつかる姿を映像化する手法を職業として続けることに驚く。著者にとって番組制作は労働ではなく自己表現。その彼が当時盛り上がっていた労働組合との議論する場面の描写が印象的だった。

読後まず感じるのは、1960年代後半の熱さ。番組制作に関わる一人ひとりが哲学や美学を持っていて、延々と議論が続いてクドい位。一方で、熱い現場がうらやましい。

少年院では「シャバにでた後に、古い友人を捨て、過去を捨てる」こと学ぶ。それでも少年院を出た人間の多くは再び戻ってくる。テレビディレクターとして、そこに問題意識を見出すのは自然だと思う。でも、実際にはその思いを映像化する過程ですれ違いが生じる。

実際の番組を今では見れないので推測に過ぎないが、ドキュメンタリーの顛末を描いた本書と比べて、実際の番組はしょっぱい感じだったと推測する。リンク先の独白の方がこの本よりも迫ってくるものがあった。インタビュアーは黒子になって、独白のような形を撮るほうがよかったと思う。

http://blog.livedoor.jp/blog_ch/archives/50489867.html